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福井地方裁判所武生支部 昭和53年(ワ)56号 判決 1980年2月01日

原告

長谷川新

被告

池田誠二

主文

被告は原告に対し、金一六二六万六八九二円および内金一五二六万六八九二円に対する昭和五二年四月二九日から、内金一〇〇万円に対する本判決言渡しの日の翌日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その三を被告の、その余を原告の各負担とする。

この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  被告は原告に対し、金三〇〇〇万円およびこれに対する昭和五二年四月二九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

日時 昭和五一年四月二九日午後三時ころ

場所 石川県羽咋市千里浜町千里浜渚ドライブウエイ

加害車両 普通乗用自動車(登録番号富五五の三八八四)

右運転手 被告

被害車両 普通乗用自動車(登録番号福井五五ち五一三〇)

右運転手 長谷川俊明(以下「俊明」という。)

右同乗者 原告ほか四名

2  事故の態様

俊明は、被害車両を運転して前記ドライブウエイの山側を走行中、前方から競争して進行する対向車二両を認めたが、そのうち後部を走行していた被告運転の加害車両が被害車両の目前に来て、先行する対向車両を無理に追い越し、次の瞬間被害車両の右側面に四五度の角度で突つ込んできて衝突したものである。

3  原告の傷害

(一) 傷害の内容

右眼外傷性網膜剥離、右眼硝子体出血および混濁、右眼穿孔性鞏角膜外傷、併発白内障、右上鼻涙管断裂、右眼失明、頭部挫傷、顔面挫創

(二) 入院(合計九三日間)

昭和五一年四月二九日から同月三〇日まで(二日間)斎藤病院

同年四月三一日から五月二六日まで(二七日間)福井県立病院

同年七月一日から八月二日まで(三三日間)京大付属病院

同年八月一二日から同月一七日まで(六日間)福井日赤病院

同五二年三月三一日から四月二四日まで(二五日間)京大付属病院

(三) 通院

昭和五一年六月六日から同月八日までおよび同年六月二四日から同月二六日まで、順天堂大学病院、中央鉄道病院、三宅眼科医等六回

同年六月二八日から同五二年六月二三日までの間に日赤に二九回

その後も一か月に一回の割合で通院現在に至る。

4  被告の責任

被告は、本件事故当時、自己のために加害車両を運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により、原告が本件事故により蒙つた損害を賠償する義務がある。

5  原告の損害 三六五五万八八四八円

(一) 労働能力喪失による損害 二一九四万〇二九二円

別紙計算書(1)記載のとおり

(二) 慰藉料 一〇〇〇万円

七級の後遺症(一眼が〇・〇二以下八級、男子の外貌に著しい醜状を残すもの一二級。一三級以上に該当する身体障害が二つ以上あり重い方の障害が一級繰上げ)

幼少年の原告が重なる入院、手術、検査、通院加療を受け、長期休学を余儀なくされた苦痛と生涯一眼喪失による負担と顔面の醜状を背負つて生きる苦痛に対する最低限のもの。

(三) 入・通院交通費および雑費等(医師・看護婦に対する謝礼、ホテル代等を含む。) 一一四万八五五六円

(四) 付添婦および家事手伝人費用 四七万円

(五) 弁護士費用 三〇〇万円

6  よつて原告は被告に対し、前記損害合計三六五五万八八四八円のうち三〇〇〇万円およびこれに対する最後に弁済期の到来した日の翌日である昭和五二年四月二九日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する答弁

1  請求の原因1の事実は認める。

2  同2の事実は否認する。

3  同3の事実は知らない。

4  同4の事実は否認する。

5  同5の事実は知らない。

三  抗弁

本件事故現場は、全幅員約五二メートルで、波打ち際から幅員約一一メートルの部分および波打ち際から約二四メートルの地点から山側の松林に向けて幅員約五・七メートルの部分は砂地は固くなつて、車両の通行が可能な状態となつているが、同現場付近の路面は、中央部分が砂による多少の凹凸が見られるものの砂の固質部分は全体的に平担となつている。渚ドライブウエイは公安委員会による交通規制はされておらず、車両通行区分も定められていないうえ、現場の見通し状況は、直線平担であるため、前方、左右とも良好である。俊明は、原告ら家族を同乗させて被害車両を運転し、渚ドライブウエイを今浜方面に向け時速四〇キロメートルで進行中、対向し他の車両を追越し中の被告運転にかかる加害車両を進路前方約二七〇メートルの地点に認めたが、俊明は、加害車両が自車の右側を進行して行くものと軽信し、自車の進路をやや左にとつたのみで、減速その他適切な避譲措置をとることなく右同速度で漫然進行し、被害車両と約二・八メートル右前方に接近して初めて衝突の危険を感じ、制動の措置を講じたが間に合わず、自車右側面前部を加害車両の前部右側部に衝突させ、本件事故が発生したものである。

右のとおり、対向車両の運転者であつた俊明は、結果回避のため適切な避譲義務を有するので、本件事故による損害額の算定にあたつては、公平の原則上五〇パーセント以上の過失相殺がなされるべきである。なお、俊明と原告とは共同運行供用関係にあつたものとして、俊明の過失は原告の過失と同視すべきものと思料する。

四  抗弁に対する答弁

本件事故の発生につき、俊明ひいて原告側に過失があるとの主張は争う。

本件事故現場は、幅員五〇メートル位の砂浜であるが、車両の走行できる部分は波打ち際から約二〇メートル位のところの砂地の固つた部分のみで、その余の個所は自動車の運行には適していない状態であつたから、広い砂丘の他の部分を原告側で走行したらよいなどというのは当たらない。ましてや原告側は、対向車両が十分通過できるよう五メートル位の間隔をおいて進行していたもので、本件事故の発生につき原告側車両の運転者俊明には責任はない。仮に俊明に若干たりとも責任があるとしても、俊明と原告は共同運行供用関係にはないから、俊明の過失を原告の過失と同視することはできない。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  本件事故の態様と双方の過失割合

請求の原因1の事実は当事者間に争いがなく、右当事者間に争いのない事実と、いずれも成立に争いのない甲第八ないし第一二号証、乙第一ないし第六号証、原告主張のとおりの写真であることに争いのない甲第一五号証の一、二、証人山本正毅の証言、原告法定代理人長谷川俊明、同長谷川幸子各本人尋問の結果(ただし、以上の各証拠中、後記措信しない部分は除く。)とを総合すれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、石川県羽咋郡押水町字今浜方面から同県羽咋市千里浜町にかけて南北に通ずる通称千里浜渚ドライブウエイの砂浜上で、千里浜町所在のレストハウスから南方の今浜寄りに約一キロメートルの地点に当たる。本件事故現場付近の砂浜は全幅員約五二メートルであるが、このうち車両の通行可能範囲は波打ち際から幅員約三〇メートルの部分である。路面は、本件事故当時やや湿気を含んだ砂地で、特に波打ち際から幅員約一一メートルの部分および波打ち際から約二四・六メートルの地点から山側の松林へ向けて幅員約五・七メートルの部分の砂地は固くなつており、全体的に平担であるが、その間に狭まれた幅員約一三・六メートルの中央部分は砂地がやや柔らかく砂による多少の凹凸が全体的に見られる。本件事故現場付近の千里浜渚ドライブウエイは、直線で障害物がなく、見とおし状況はきわめて良好であり、公安委員会による交通規制はされておらず、車両通行区分も定められていないが、通行車両はおおむね左側通行をし、特に砂地の固くなつた部分を通行している状況である。しかし幅員約一三・六メートルの中央部分も、車両が走行する際車輪が轍痕を印象する程度に僅かながら砂地にめり込み、砂煙りが立ちあがるが、時速約四〇キロメートル程度の速度であれば走行可能な状態にある。

被告は、本件事故当時、加害車両の助手席に女友達の渡辺園枝を同乗させて同車両を運転し、千里浜渚ドライブウエイを今浜方面から千里浜町方面に向けて北進し、一緒にドライブに来ていた同一方向に進行中の被告の友人中居忠義運転の普通乗用自動車を追い越して、しばらく走行したのち、今度は同一方向に進行していたクリーム色の普通乗用自動車を追い越すべく、波打ち際近くの砂地の固くなつた部分から砂地のやや柔らかくなつた中央部分にはみ出て加速しながら時速四〇キロメートルをはるかに超える高速度で右先行車両をその右側から追い越そうとしたが、反対方向から被害車両が対向して来るのを認めたのに、なかなか追越しが完了できず、被害車両とかなり接近した地点でようやく左側へ進路を変更したところ、その直後何らかの原因で急激に加害車両の進行方向が右側に転換し、至近距離に迫つた被害車両の右側面にやや斜め方向から突込み、波打ち際から約一四・七メートルの地点で被害車両の右側面前部に加害車両の右前部を衝突させ、その結果加害車両は左に横転して停止した。

他方、俊明は、本件事故当時、被害車両の助手席に三男輝を抱きかかえた実父長谷川諭、後部座席に右側から順に長男原吉、二男祐二、妻幸子を同乗させて同車両を運転し、千里浜渚ドライブウエイの波打ち際から約一〇メートル前後の付近を千里浜町方面から今浜方面に向けて時速約四〇キロメートルで南進中、進路約二百数十メートル前方に二台の対向車両が競争するようにして北進し、そのうち中央部分を砂煙りを立ちあげながら走行中の一台の車両(加害車両)が、他の車両をその右側から追い越そうとしているのを認めたが、加害車両が自車の右側を進行して来るものと軽信し、自車の進路をやや左にとつたのみで特に避譲措置をとることなく、漫然前記同一速度で進行し、加害軍両の約三メートル右前方に接近して初めて衝突の危険を感じ、制動の措置を講じたが間に合わず、自車の右側面前部と加害車両の右前部とが衝突した。

以上のとおり認められ、前記乙第一号証、証人山本正毅の証言ならびに原告法定代理人長谷川俊明、同長谷川幸子各本人尋問の結果中、右認定に反する部分は、いずれも前掲各証拠に照らしてにわかに措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によると、本件事故現場付近のドライブウエイは車両通行区分が定められておらず、しかも中央部分は砂地がやや柔らかく砂による多少の凹凸が見られ高速度の走行は危険であつたのであるから、被告としては、中央部分にはみ出て先行車両をその右側から追い越すにあたつては、反対方向からの対向車両の有無や先行車両の前方の交通状況を十分に注視し、その安全を確認して追い越し、もつて事故の発生を未然に防止すべき注意義務があつたのに、これを怠り、その安全を十分に確認せず漫然中央部分にはみ出て高速度で先行車両を追い越そうとした点で大きな過失があることは明らかである。他方、俊明としても、進路前方に二台の対向車両が競争するようにして北進し、そのうち中央部分を砂煙りを立ちあげながら走行中の一台の車両(加害車両)が、他の車両をその右側から追い越そうとしているのを認めたのであるから、前記認定のような千里浜渚ドライブウエイの交通規制の状況や中央部分の路面の状況等から推して、中央部分を高速度で対向北進して来る加害車両との衝突の危険性を予め予見したうえ、同車との不慮の衝突を回避するため、その動静を十分に注視するはもちろん、自車の進路をさらに左に変更するとか、減速徐行するなどして避譲措置をとり、もつて事故の発生を未然に防止すべき注意義務があつたのに、これを怠り、漫然同一速度で進行し対向北進して来る加害車両に接近した点で、やはり過失を免れることは困難であるというべきである。

そして、俊明と原告とは親子の関係にあり、しかも原告は俊明の運転する被害車両に同乗していて本件事故に遭遇したのであるから、本件事故による損害額の算定にあたつては、損害負担の公平上、俊明の過失を原告側の過失としてしんしやくすべきところ、前記双方の過失の態様等に照らし、双方の過失割合は被告側九割に対し、原告側一割と認めるのが相当である。

二  被告の責任

前記甲第八、第一〇号証、乙第五号証によれば、被告は、本件事故当時、加害車両を運転し、同車両の運行を支配していてその運行による利益を享受していたことが認められ、右認定に反する証拠はない。右認定事実によると、被告は原告に対し、いわゆる運行供用者として自賠法三条により、原告が本件事故により蒙つた損害を賠償する義務がある。

三  原告の傷害

いずれも原本の存在およびその成立に争いのない甲第二号証、同第四号証の一、二、同第五号証の一ないし四、同第六号証の一、いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三号証、同第六号証の二(ただし一部)、原告法定代理人長谷川幸子本人尋問の結果およびこれにより真正に成立したものと認められる甲第七号証ならびに原告法定代理人長谷川俊明本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故により、右眼の鞏角膜穿孔(眼球破裂)、右眼の硝子体出血、右上鼻涙管断裂、頭部挫傷、顔面挫創等の傷害を受け、その後右眼の外傷性網膜剥離を生じ、白内障を併発し、右眼が視力低下の末失明したこと、原告は、右傷害のため、本件事故当日の昭和五一年四月二九日羽咋市内の池野病院に入院して治療を受けたのち、即日鯖江市内の斎藤病院に転院し、同日から翌三〇日まで二日間同病院に、その後同年四月三〇日から五月二七日まで二八日間福井市内の福井県立病院眼科に、同年七月一日から八月二日まで三三日間京都市内の京都大学医学部付属病院(以下「京大付属病院」という。)眼科に(第一回)、同年八月一二日から同月一七日まで六日間福井市内の福井赤十字病院眼科に、さらに昭和五二年三月三一日から四月二四日まで二五日間京大付属病院眼科に(第二回)、それぞれ入院して、鞏角膜縫合術、硝子体切除術、網膜剥離手術等を含む治療を受けたこと(入院総日数は合計九三日になる。)、また、原告は、昭和五一年五月二八日から同年六月一九日までの間二日福井県立病院眼科に、同年六月七日前後ころと同年同月二五日前後ころ少なくとも二日東京都内の順天堂大学病院に、同年六月二八日から同五二年六月二三日までの間二九日福井赤十字病院眼科に、昭和五一年八月二四日から同五二年五月二〇日までの間少なくとも一二日以上京大付属病院眼科に、それぞれ通院して治療を受けたこと、原告は、昭和五二年五月二〇日以降も京大付属病院に通院を続けており、右日時以降の通院回数は昭和五二年、同五三年中それぞれ四回であること、原告は、本件事故により、後遺障害として、右眼が失明したほか、顔面の右額部、右上・下瞼、左鼻下方に延べにして長さ約一〇ないし一五センチメートルの線状痕を残したてと、が認められ、前記甲第六号証の二中、右認定に反する部分は措信せず、他に右認定に反する証拠はない。

右後遺障害のうち、前者は、一眼が失明したものとして自賠法施行令別表に定める後遺障害等級第八級に該当し、後者は、男子の外貌に著しい醜状を残すものとして障害等級第一二級に該当するところ、いわゆる併合繰上げにより、原告の後遺障害は障害等級第七級に該当するものと認められる。

四  原告の損害

1  逸失利益 一〇一二万九五〇六円

前記三認定の事実に、原本の存在およびその成立に争いのない甲第一号証ならびに原告法定代理人長谷川幸子本人尋問の結果を合わせれば、原告は、本件事故当時、満七歳(昭和四四年三月五日生)の健康な男子の小学生であつたことが認められ、もし原告が本件事故に遭遇していなければ、将来満一八歳から満六七歳まで四九年間就労可能であつたと推認される。ところが、原告は、本件事故により、前記三認定のとおり障害等級第七級の後遺障害を残したことが認められ、その結果、将来にわたり相当割合の労働能力を喪失したものと推認される。ところで、原告の右労働能力の喪失率が如何ほどかはきわめて認定困難であるが、労働基準監督局長通牒(昭和三二・七・二基発第五五一号)による労働能力喪失率表のほか原告の受傷の部位・程度、原告の年齢等に照らして考えると、原告の前記後遺障害による労働能力の喪失率は四五パーセントと認めるのが相当であり、また、右労働能力の喪失期間は就労可能年数と同じ満一八歳から満六七歳までの四九年間と認めるのが相当である。そして、原告は、右就労可能期間(四九年間)少なくとも労働省発表の「資金構造基本統計調査報告」第一巻第一表、産業計・企業規模計・新高卒一八歳ないし一九歳男子の平均給与額である一一九万九六〇〇円の年収をあげ得たものと推認するのが相当であるので、原告の逸失利益につきホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して事故時の現価を求めると、別紙計算書(2)記載のとおり一〇一二万九五〇六円(ただし、一円未満切捨)となる。

2  慰藉料 六〇〇万円

前記認定のような原告の受傷の部位・程度、原告の後遺障害の部位・程度、入・通院期間、原告の年齢等諸般の事由をしんしやくすると、原告が本件事故により、受けた精神的苦痛を慰藉するには、金六〇〇万円(うち入通院分一五〇万円、後遺障害分四五〇万円)をもつて相当と認める。

3  入・通院交通費 四〇万二四二〇円

前記甲第七、第一四号証および原告法定代理人長谷川幸子本人尋問の結果によれば、原告は、原告本人の入・退院や通院のための交通費のほか、原告の実母に当たる長谷川幸子(以下「幸子」という。)など近親者による付添・見舞等のための交通費も含めて、(1)池野病院および斎藤病院への入院のための交通費として八万一四〇〇円、(2)福井県立病院からの退院および同病院への通院のための交通費として九三七〇円、(3)順天堂大学病院への通院のための交通費として五万五一二〇円、(4)京大付属病院への入・退院(第一回)のための交通費として一二万〇五八〇円、(5)福井赤十字病院への入・退院および通院のための交通費(ただし、駐車料を含む。)として二万〇九〇〇円、(6)京大付属病院への通院のための交通費として一四万六八六〇円、(7)同病院への入・退院(第二回)のための交通費として四万二三四〇円、他に(8)今立・武生間の交通費として一万三〇〇〇円(二六〇円の五〇回分)、合計四八万九五七〇円を支出したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

しかし、右(1)の交通費のうち、昭和五一年四月二九日親戚の者に池野病院まで来て貰つた謝礼(車代)として支払つた三万円については本件事故との相当性を認め難く、また、右(1)の交通費のうち、同日斎藤病院の医師・看護婦に救急車で池野病院まで来て貰い原告を斎藤病院まで搬送して貰つた車代として支払つた五万円については四万円を限度として、右(4)の交通費のうち、同年六月二八日京大付属病院に入院する際親戚の田中茂に自宅から同病院まで、さらに同病院から大阪府西淀川区所在の幸子の姉長谷川ウタ子宅まで送り届けて貰つた車代として支払つた三万円および同年七月一日幸子の姉が原告を右姉宅から右病院まで連れて行くのに要したタクシー代六〇六〇円については右両者を合わせ三万円を限度として、同年八月二日京大付属病院を退院する際同病院から前記幸子の姉宅まで行くのに要した車代六〇九〇円および翌三日右姉宅から自宅まで帰宅するのに要したタクシー代三万五〇〇〇円については右両者を合わせ三万円を限度として、右(6)の交通費のうち、同年一二月七日京大付属病院に通院した際同病院から前記幸子の姉宅まで行くのに要した車代六五〇〇円および翌八日右姉宅から自宅まで帰宅するのに要したタクシー代三万三五〇〇円については両者を合わせ一万円を限度として、それぞれ本件事故との相当性を認め、その余の交通費については全額本件事故との相当性を認める。

したがつて、右(1)ないし(8)の交通費のうち、本件事故による損害として認められる入・通院交通費は、合計四〇万二四二〇円となる。

4  入院雑費 五万五八〇〇円

原告の入院期間は、前記三認定のとおり合計九三日間であるところ、右期間中諸雑費として、現実に支出された金額の如何を問わず、入院一日につき六〇〇円を要したものと認めるのが相当であるので、入院雑費は合計五万五八〇〇円となる。

5  医師・看護婦に対する謝礼 三万円

前記甲第七(ただし一部)、第一四号証および原告法定代理人長谷川幸子本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨によれば、原告は、治療を受けた病院の医師・看護婦に対する謝礼として、(1)斎藤病院の医師に一〇万円、看護婦に九万円、(2)福井県立病院の医師等に七万四九五五円、(3)京大付属病院の医師等に三万七三〇〇円、(4)同病院の看護婦に六〇〇〇円、(5)福井赤十字病院の医師に一万円、合計三一万八二五五円、その他にもかなりの金額を支出したことが認められ、前記甲第七号証中、右認定に反する部分は措信せず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右(1)ないし(5)の謝礼は儀礼的な贈与とみられるものではあろうが、原告の受傷の部位・程度、前記手術を含む治療状況等に照らし、右支出額のうち三方円を限度として本件事故との相当性を認める。

6  ホテル代 二万円

前記甲第七号証および原告法定代理人長谷川幸子本人尋問の結果によれば、原告は、付添の実母幸子らと共に、順天堂病院に通院するためホテルに宿泊し、ホテル代として合計三万七五五〇円を支払つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

原告の受傷の部位・程度等に照らし、右ホテル代のうち二万円を限度として本件事故との相当性を認める。

7  付添看護料 四七万円

前記甲第四号証の一、同第五号証の一、同第六号証の一、同第七号証および原告法定代理人長谷川幸子本人尋問の結果によれば、原告は、当時まだ満七歳の幼児にすぎなかつたうえ、入院期間中に手術を受けたり術後絶対安静を要したりしたため、医師の診断の有無にかかわらず(ただし、京大付属病院(第一回)と福井赤十字病院への入院期間中については、付添看護を要するとの医師の診断がある。)、入院期間全期間につき付添看護を必要としたばかりでなく、通院する際にも付添を必要とする状態にあつたこと、そのため、右入院期間中のほとんど全部を原告の実母である幸子が原告の付添看護に当たり、うち五日間はもと家政婦会に勤めていた野村とりに依頼して原告の付添看護をして貰い、また、通院の際にも幸子が必ず原告の付添をしたこと、ところが、幸子は、他に夫長谷川俊明と二男祐二(当時五歳)、三男輝(当時二歳)および夫の両親の家族がおり、特に幼少の二児の監護養育と病弱の夫の母親の世話をしなければならない立場にあつたところから、原告の付添看護等のため家を留守にする期間家政婦を雇う必要が生じ、右野村とりに依頼して合計八九日間幸子の代わりに家事労働に従事して貰つたこと、しかして、原告は、野村とりに対し、原告の付添看護料として一日につき五〇〇〇円の五日分、合計二万五〇〇〇円および家事労働の報酬として一日につき五〇〇〇円の八九日分、合計四四万五〇〇〇円を支払つたこと、が認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実によると、原告は、本件事故により、付添看護料として合計四七万円の損害を蒙つたものと認めるのが相当である。

8  過失相殺

弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により、治療費として一三〇万〇六一〇円の損害を蒙り、既にその損害の填補を受けていることが認められるので、以上1ないし7の損害合計一七一〇万七七二六円と右治療費一三〇万〇六一〇円との合計額一八四〇万八三三六円に一割の過失相殺をすると、一六五六万七五〇二円(ただし一円未満切捨)となり、それから右損害の填補額一三〇万〇六一〇円を控除すると、一五二六万六八九二円となる。

9  弁護士費用

原告法定代理人長谷川幸子本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、原告は、被告から任意に本件事故による損害の賠償を受けられず、やむなく原告訴訟代理人に本件訴訟の提起・追行を委任し、着手金として五〇万円を支払つたほか、報酬として訴訟終了後二五〇万円を支払う旨約定したこと、が認められる。しかし、本件事案の内容、審理の経過、認容額等に照らし、右金員のうち原告が被告に対し本件事故による損害として賠償を求めることができる額は一〇〇万円と認めるのが相当である。

五  結論

以上によれば、被告は原告に対し、本件事故による損害賠償として金一六二六万六八九二円および内金一五二六万六八九二円(弁護士費用を除いたもの)に対する不法行為後である昭和五二年四月二九日から、内金一〇〇万円(弁護士費用)に対する本判決言渡しの日の翌日から各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるが、その余については支払義務はない。

よつて原告の本訴請求は、右支払義務を認めた限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 竹原俊一)

計算書(1)

206,300円(賃金センサスによる全年齢平均給与額)×12=2,475,600円(年間収入)

2,475,600円×56/100(労働能力喪失率)=1,386,336円

1,386,336円×15.8261(ホフマン係数(注)参照)=21,940,292円

(注) 15.8261=24.4162(就労終期までの年数に応ずるホフマン係数)-8.5901(就労始期までの年数に応ずるホフマン係数)

計算書(2)

1,199,600(賃金センサスによる18歳ないし19歳男子平均給与額)×45/100(労働能力喪失率)=539,820

539,820×18.7646(ホフマン係数、(注)参照)=10,129,506

(注) 18.7646=27.3547(就労の終期までの年数に対応する係数)-8.5901(就労の始期までの年数に対応する係数)

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